紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    3.害虫の発生状況の調査法と予測法

     3) トラップによる調査法

 ア.害虫の行動の特徴

 害虫は、それぞれの種類で行動に特徴を持っている。まず、害虫が繁殖するためには雌雄のめぐり会いが不可欠だが、多くの場合、それぞれの種は性フェロモンとして種特異的な成分あるいは成分比の化学物質を放出する。また、餌となるものの匂いに誘引される場合もある。夜行性の害虫は多くの場合、走光性を持っており、光りに誘引される。昼行性の害虫では、特定の色彩に強く誘引される場合がある。さらに、微小な昆虫は風に乗って移動するものが多い。

 
イ.トラップの種類

 以上のような害虫の行動特性を利用したトラップが考案され、調査用に利用されている。性フェロモンを利用したフェロモントラップ、走光性を利用したライトトラップ(誘蛾灯)、餌の匂いを利用したベイトトラップ、色彩を利用したカラー粘着トラップや黄色水盤トラップ、風で移動する害虫用のネットトラップなどがある。

 
ウ.フェロモントラップ

 性フェロモンは多くの場合、雌が放出し雄を誘引する物質であり、主にガの仲間のものがトラップ調査で利用されている。現在市販されているフェロモン剤の種類は、これを取り扱っている日本植物防疫協会の発生予察用フェロモン剤リストでその概略が分る。トラップ調査では、フェロモン剤の匂いに集まる雄成虫をその種に適した形のトラップで捕らえてその数を調査し、発生量の多寡、発生開始時期や発生ピーク時期を知り、防除時期や防除の要否を決定するための情報を得る。

 フェロモントラップは、@誘引したガを粘着板で捕捉する三角形の屋根型トラップ、A誘引されたガが入ったら逃げられない箱型の乾式トラップ、Bフェロモン剤を水面近くに設置し、誘引されたガを界面活性剤の入った水面に落下させる水盤型トラップなど、いろいろな形のものがある。ペットボトルを用いて作成することもできる。最近は、C誘引したガを自動カウントして送信することのできる自動計数トラップ(ムシダス2000など)も市販されている。

 発生予察用性フェロモン剤は1〜3ヶ月有効なものが多いが、価格が比較的高いので、集団栽培団地などで利用される場合が多い。また、県の病害虫防除所ではデータ収集のために使用している。これからは、営農面積の大きな農家や農業生産法人などでの利用も増えていくと思われる。

 
エ.カラートラップ

 害虫の種類によって誘引される色彩が異なる。黄色に誘引される害虫の種類は比較的多く、アブラムシ類、ウンカ類、ヨコバイ類、ハモグリバエ類、コナジラミ類、アザミウマ類、ミバエ類、コナガなどである。このうち、前3者は、黄色の水盤トラップを圃場に設置し、落下する虫数を調査する。施設栽培野菜や花きでは、ハモグリバエ、コナジラミ、アザミウマ、アブラムシ、コナガの調査で黄色粘着シートが用いられている。前記の日本植物防疫協会HPで黄色と青色の粘着シートが販売されている。なお、ミナミキイロアザミウマとミカンキイロアザミウマでは黄色よりも青色(前者はライトブルー、後者はダークブルー)の粘着シートの方に多く誘殺される。

 
オ.誘蛾灯

 
誘蛾灯で誘殺される害虫は、ガ類、イネミズゾウムシ、コガネムシなどの甲虫類、ウンカ類、ヨコバイ類などである。白熱灯、蛍光灯、青色蛍光灯、ブラックライトなどが光源として用いられ、誘引された害虫はロート状の筒を経て捕虫箱に落下させる、界面活性剤の入った水面に落下させる、ファンの風力で捕虫網内に送り込むなどの形がある。誘蛾灯による誘殺では雑多な昆虫が多数入るので、調査対象の害虫をその中から選んで識別するのに時間と人手を要する。一方、フェロモントラップでは特定の害虫しか入らず計数が容易であるので、調査方法は誘蛾灯からフェロモントラップへ移行している。

 
カ.餌トラップ

 害虫は餌の匂いに誘引されるので、匂いのする餌を誘引源として用いる場合がある。アワヨトウの成虫は、蜜の匂いに誘引されるので、誘殺器の中に糖蜜(黒糖、清酒、食酢、水の混合物)を入れ誘殺する。

 
キ.ネットトラップ

 ネットトラップは、直径1mほどの大きな捕虫用ネットを風の吹き抜ける屋上や高い支柱に掲げて、風に流されて浮遊・移動する害虫を捕捉して調査するものである。ネットトラップの利用は、イネの害虫であるウンカ類、ヨコバイ類などで利用されているが、県の病害虫防除所や、農業試験場での利用が主である。
 
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